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参考資料

【知識/制度・実務】玄米・精米の食品表示制度と米DNA検査の関係(後編)

前編では、米表示基準に係る制度を俯瞰し、品種は主に食品表示基準が関係することを確認しました。

今回は、食品基準とDNA品種判別検査がどのように関係しているか読み解き、仮にDNA検査で予期しない結果が出た場合にどのように対応すればよいのか、考えたいと思います。

目次

1.米の表示制度について

(1)米トレーサビリティ法に基づく表示義務

(2)食品表示基準に基づき必要となる表示

2.米DNA品種判別検査と米表示規制との関係(←今回)

(1)米品種判別の定性検査で陽性反応だった場合(その他米の混入)、表示法との関係で問題が生じるか

(2)陽性反応が出た後の検査ステップ

3.その他景品表示法等との関係(←今回)

2.米DNA品種判別検査と米表示規制との関係

(1)米品種判別の定性検査で陽性反応だった場合(その他米の混入)、表示法との関係で問題が生じるか

 

米定性検査では、米のDNAを増幅し異品種の有無を確かめます。したがって、理論的には異品種のDNAコピーが1つでも存在するとそのDNAが増幅されるため異品種が検出される可能性があります。

もし、米定性検査で陽性反応が出た場合には、食品表示基準との関係で「単一米」と表示することが基準違反になるのではないかと懸念が生じます。しかしながら、前述のようにDNAコピーが数個入っているなど、ごく微量でも違反に問われるとなると、いかにも不合理で現実的ではないと思われます。

 

このケースの場合、ごく微量の意図しない混入(コンタミ)であれば、食料表示基準との関連に限っては問題ないと思われます(*)。食品表示基準は、コンタミが生じた場合の取り扱いについて明示したものはなく、当該品種が同一と証明を受けたものについては単一米、複数のものは複数原料米と表示すると定めるにとどまっています。( *関東農政局に確認)

 

さらに、同一銘柄であるとの証明に関して、農産物検査法と関連して定められている農産物検査に関する「基本要領Ⅰの第4  農産物検査の実施 国内産農産物の検査実施マニュアル農産物検査」では、DNA分析を品種判別に用いる場合「任意にDNA分析を用いて異品種の混入状況について確認する場合の異品種の混入限度は5%とし、これを超える場合は銘柄証明を取り消すものとする。ただし、意図的な異品種の混入が明らかである場合は、異品種混入限度内であっても、銘柄証明を取り消すものとする。」としています。同マニュアルはコンタミの許容基準を直接的に定めたものではないものの、DNA鑑定では意図しない混入は5%が基準になりうるということを示しています。

 

なお、DNA検査はあくまで銘柄判定の基礎資料にすぎません。同マニュアルの別紙5において、銘柄判定は、「品種関連情報等の事前収集」(DNA検査もこちらに含まれる)を行い、「外観形質、形質、色沢等の特徴」から品種鑑定を行い銘柄判定することになっています。品種鑑定の確認事項としては「① 当該品種に異品種の混入が視覚により認められないこと」「② 当該品種の特性・特徴(粒個々、粒群)が明確であること」「③ 種子更新の状況及び品種別作付状況等の品種関連情報と受検数量等が矛盾していないこと」が挙げられています。

 

(2)陽性反応が出た後の検査ステップ

 

このように、定性検査で陽性反応が出た場合、直ちに問題となるわけではなく定量検査でその混入率を算出することが必要になってきます(定性検査が偽陽性でなかったか再検査の意味合いも含む)。その際、DNA検査は5%が基準になりうることからして、定量検査は最低でも20粒以上の検査が必要になると考えられます。

 

よって、弊社では25粒検査を定量検査の粒数としており(1粒あたり4%)、母集団が5%超であるかどうかを統計的に推定できるよう設定しています。(但し、弊社は試料の品種を判別するのみであり母集団について結論や証明を行うものではありません。証明は登録検査機関の最終判断によるものと思われます。)

 

3.その他、景品表示法等との関係

 

米トレーサビリティ法と食品表示基準との関係で論点が明らかになったところで、景品表示法との関係を考えたいと思います。前2法は、表示されなければ困るものを規制しており、義務表示法と呼ばれるのに対し、景品表示法は虚偽や誇大など不適切な表示をされてしまうおそれを防止する不適正表示防止法と呼ばれるものです。したがって、食品表示法の関係では問題が生じないことでも、景品表示法との関係で問題となりうるケースがありえます。

 

景品表示法第4条第1項第1号には優良誤認について「「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの 」と規定しています。

優良誤認にあたると判断される場合、消費者庁は必要に応じて当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができるようになり、当該資料が提出されない場合には、不当表示(景品表示法7条)とみなされます。不当表示を行った事業者は、行政による違反措置の排除措置が取られ、課徴金の納付命令があります。

 

本条項に該当するかどうかは、義務的表示ではないため事案によって個別具体的に判断されており、裁判例の蓄積等から読み解くことになります。こちらは、本稿の射程から外れますので割愛させて頂きます。

単一米であることが高価格の要因となっており、コンタミ程度の微量の混入が一般消費者の購入に決定的な影響を及ぼすような商品の場合は、「100%米(例)」との表示が景品表示法との関係で優良誤認を一般消費者に与えたと判断される場合がありえます。単一米を強調する商品名や表示を加える場合は、より厳しい基準で品種判別を考えるべきと思われます(あくまで弊社の私見になります。詳しくは貴社の顧問弁護士等にご相談下さい)。

 

また、今まで述べてきた表示規制との関係で問題が無い場合でも、顧客の要求水準を把握しておくことは重要です。定量検査で1粒検出だったので、5%基準で問題ないと思っていたところ、顧客は表示規制が求める基準よりも厳しい1%で考えていた等、問題が生じるケースもありえます。直接には聞きづらいかもしれませんが、顧客の属性や販売方法、PR等もよく観察しながら対応することが有効であると考えられます。

いかがでしたでしょうか。余分なコストと労力をかけずに、且つ検査をしっかりと行うためには様々なケースを予想して打つ手を事前に考えておくことが有効です。

 

微力ながら弊社もお役に立ちたいと思いますので、ご疑問などお気軽にお寄せください。